玉響櫛








の指先が、俺の髪をゆっくりと梳いてゆく。


「またあった。」


の声が発せられてから一瞬遅れて聞こえる小さな金属音。
その音の元は小さな鋏。
の手に収まったそれは研ぎ澄まされた刃を寄せ合い、枝分かれになった
俺の髪をハラリと切り離す。


「一応、手入れはしてんだけどな。」


広げられたペーパーの上を見れば、予想よりも多くの毛先が溜まっていて
いかに自分のそれが傷んでいるのかを実感する。


「毎日あれだけテニスコートで動き回ってれば傷むって。」


そう言いながら確認を終えた一房を離して、がまた新しく髪を掬い取る。
その仕草が心地良くて、俺はうっとりと瞳を閉じる。


ショキ…


鋏の金属音。


トクン…


の心音。


サラサラと髪が零れ落ちる音に混じって俺の耳に響く呼吸音は
どんな音楽よりも優しく、俺を穏やかな気持ちにさせてゆく。


ショキ…ン


「凛?寝ちゃった?」


に寄りかかったまま、大人しく瞳を閉じていたら
寝てしまったと思ったらしいが抑え目な声で問い掛けてくる。
眠ってはいなかったけれど、返事をするのも首を縦にふるのもダルかったから
そのまま寝たふり。


「寝ちゃった…か。」


いんや、起きてる。
勘違いしたを笑ってやりたかったけど
今、動いたらこの心地良さが崩れて無くなってしまう気がして
それが出来ずに居ると


「…おやすみ。」


額に柔らかな感触が落ちてきた。


ショキン…


少し間が空いて、再び響いた鋏の音。
今のって…デコチューだよなぁ…?

や、嬉しいけどよ。

そう云うのは起きてる時に(今も起きてるけどな)しろよ。













拍手お礼でした。







 
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