「ねぇ、さん!チョコちょうだい?」


勢い良く背後から抱き着いてきた裕次郎が
甘えた声で強請りの言葉を口にする。
腕を伸ばし、慣れた手つきで彼の髪をグシャグシャと撫ぜながら
壁に掛けられたカレンダーを見て気付く。


あぁ、今日はバレンタインか。






古の聖者に、感謝と弔いを






「ねぇ、チョコ!ちょうだい!?」


ギュッと抱き付いた腕の力を込めながら、尚も裕次郎は
にチョコをくれとせがむ。
幼い子供のような、実際まだ子供なのだけれど、それには気付かれないよう
小さく笑みを溢すと
髪を撫ぜていた手の中指に嵌められていた指輪を抜き取り
そっと自分のそれよりも大きな、まだまだ子供の癖に一丁前に男のものになっている
掌に、銀色のリングを握らせた。


「チョコは無いけど、それあげる。」

「指輪?何で?チョコはー?」

「だから、無いってば。」


今日がそう云う日だって忘れてたから用意してないの。


「げ!ヒデー!!俺、さんの彼氏なのに!
 忘れるなんて、つれなくない??」


唇を尖らせながら、拗ねたようにに抗議をするけれど
それとは裏腹に、握らされたリングを実に嬉しそうに、いそいそと自分の指へと
滑り込ませる。女物のそれは造りが細く、節の太い裕次郎の指へ嵌めることは容易くなかったが
どうにか余裕のある指を見つけ、その根元へ落ち着かせた。
アンバランスな、リングの造りと彼の指。
けれどそれは、いまだ少年な彼には良く似合っていた。
それを見て、意外と思いながらも嬉しげに目を細める。
咄嗟の贈り物だったが、自分が普段身に付けていた物が、
恋人と呼べる人物に似合うと云うことは喜ばしいことと言っていい。
その喜びを隠すこともせず、破顔すると
裕次郎の手に自分の手を重ね、そっと指を絡ませた。


「まぁ、ゴメンて。でも、」

「でも?」


一旦、言葉を切ったに裕次郎が首を傾げる。
柔らかな、癖の強い髪が、彼女の心を擽るように揺れる。


「うん。チョコより指輪のほうが、本来のバレンタインの意味に近くて良いと思わない?」


言って、そっと唇を寄せる。
きょとん、とした裕次郎の顔。渇いて、少し荒れている唇。
静かに年下の恋人を愛しいと思う気持ちが溢れ出す。


「バレンタインの起源、知らない?」

「ん、知らない。何ソレ。」

「あはは、そうだと思った。でも、教えてあげない。」


いたずらに微笑んで、もう一度。
今度は深く口付ける。
重ねた右手に、強く力を込めながら。


その手が離れるのは、薬指に収まった指輪が
二人の体温を孕んで熱くなるまで・・・。




この日を授けた今はもう居ない聖者に、最上級の感謝を。




Happy Valentine!!












年上彼女と甲斐くんのバレンタインでした。この二人は至極書きやすい。
バレンタインの起源については、こちらのサイトさんを参考に。
ご存知ないかたは、どうぞ。

ttp://www.family.gr.jp/valentine/valentine.htm




 
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