Wishさん、」


こげ茶色のソファにゆったりと足を組んで、新聞を読むさんに四つん這いで近付いて
名前を呼ぶ。俺の鳴き声に気付いたさんは、視線を落として優しく微笑んだ。


「どうした?」


何の躊躇も無く投げ出された新聞紙。空いた手はゆっくりこちらへ伸びてきて
そっと俺の頬を撫ぜ、髪を梳く。触れた指先から、さんの熱だけじゃなくて
惜しげなく愛情を注がれていることが分かって、くすぐったい。
俺は犬じゃなくて、人間だけど、こうして愛されるのは、可愛がられるのは嫌じゃない。
嫌じゃないどころか、気持良くて、凄く好きだ。


「どうしたの?」

「抱っこ。」

「ん?」

「さん、抱っこ、して。」


言って両腕を伸ばすと、さんは歯を見せて笑って「寛くんは甘えん坊だねぇ。」そう言うと
俺と同じ様に腕を広げて、俺を受け入れてくれた。
でっかい俺がさんの膝上に乗るのは無理だから、ソファの肘置きに背を凭れ掛けたさんに
覆い被さるみたいにして、ぎゅっと抱きつく。
きっと、この体勢も辛いんだろうって事は分かってる(だって俺でかいし)。
でもさんは文句も言わず俺を受け止めてくれるから、ついつい甘えてしまうんだ。


「でっかいワンコだねぇ、寛くんは。」

「…わん。」


さんの戯言にノリながらふかふかした胸元に擦り寄って。
もし俺が本当に犬だったら、きっと今ごろ死ぬほど尻尾を振っているに違いない。
其れくらいに分かりやすい愛情を込めて、柔らかな身体に身を任せる。
今まで甘えられる側 頼られる側に居たから、こうして理由もなく甘える事が出来るのが
こんなにも嬉しいものだと知らなかった。
その反面、自分がまだ子供である事実が浮き彫りになるけれど、そんな事は気にも止まらない。
我侭だけど、こんなにも幸せなんだ。それ以外の事実なんて、今は要らない。必要無い。


「寛くん、あったかいねぇ。」


いつも太陽浴びてるからかな?ねぇ、このまま少し寝ちゃおうか。
髪を梳きながら、さんが耳元で囁く嬉しい昼寝のお誘いに、俺は躊躇する事無く
胸元に顔をうずめたまま頷く。それと同時にさんが微笑んだのか、優しい吐息が首筋にかかって
覆い被さる身体に、うっくりと腕をまわされる。


「じゃあ、ちょっとだけお休み。」

「おやすみなさい。」


外は快晴、洗濯日和。ベランダに乾されたシャツが日光の下ではためくのを横目に
2人で静かに目を閉じる。
愛しさに全身を包まれながら闇に落ちるのは、そう悪いものじゃなかった。










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