知念は、とても強い人だと思う。
それでいて、とても弱い。
強さと弱さ、それは皆が併せ持つものだと思うけど
知念は、寛はそれが他人より顕著に見て取れると思う。

私は。


私に、とっては。









みちしるべ










寄せる波が耳に余韻を残して、打ち寄せては引いて行く。
こうして夕暮れの海辺に訪れるのは一体何度目だろうか。
数なんて数えていないから分からないけれど、それでも何度訪れても
オレンジに染まったこの美しい風景を観る事は飽かず、心が震える。

感動に粟立つ肌。

目の覚めるような青から一変して、視界いっぱいに広がる朱。

ゾクリと、背筋を震えさせる景色。

こうして此処へ来ると、どうしてかザワリと心が騒いで
縋るように寛の手を探すのはいつもアタシだ。
けれど、どうしてだろうね・・・ううん、理由なんて分かってる。


「きれい、だね。」

「・・・ん。」


今日はいつもと違って、知念の方から
力無く垂れ下がるアタシの手に自分の指を絡めて来た。
それに気付いて手を握り返す前に、ぎゅっと強く絡めた指先に力を込められて
掴まれているのは、握られているのは手の筈なのに
何故か心臓を掴まれたような、そんな気がして、優しい手の温度に涙腺が少し緩む。
あぁ、自分はそんなキャラじゃないのに。

口数は、決して多くない知念。
正直、彼が分からない事は少なく無い。

けれど今は、知念の気持ちが凄く分かるよ。
触れ合う手から、重ねた肌から彼の弱い部分が伝わってくる。
一体何があったのか、それは全く分からないけれど
優しい彼の、強い彼の、そんな彼が心を乱すことがあったんだろう。


「・・・、」

「ぅん?」


知念は強い。だから泣き言なんて普段は言わないし、弱音だって殆ど吐かない。
けれど、こうしてどうしようも無くなった時
縋る何かが必要になった時、言葉無くアタシを求めてくれる。

それはきっと、端から見れば何気ない日常の一部。
他愛無い、いつもの青い春の戯れ。

それでも、アタシ達には意味有る大事な瞬間。
鳥が羽根を休めるように、お互いの手を取ってアタシ達は行き場のない思いを
昇華させる。
凭れる行為は傷の舐め合いに見えるだろうか。
相手に依存しているように、見えるだろうか。


「何でも、無い。」

「・・・そっか。」


言葉は絶たれて、波の音が再度鼓膜を震わせる。
静かな呼吸音は互いの耳に、届かない。
それでも肌で感じる、知念の気配。熱。そして、心が静まってゆく音。

あぁ、出口を見つけたんだな。

直感で、そう思った。
知念は弱いけれど、とても強い。
常々感じていたそれを間近で感じて、口元が自然と緩まる。

頬を撫ぜる凪風は、どこまでも穏やかだ。

アタシは大きな人間じゃないから、強くて弱い知念の手を
前を歩いて引くことは出来ない。
彼の進むべき道の標には、なれない。

でも、それで良い。

彼は彼の強さでもって、前を見るべきなんだから。


繋がれたままの、手。
繋ぐ力はそのままに、横に一歩間合いを詰めて
そっと彼の肩口に額を預ける。
背の高い彼の、丁度アタシが無理せず届く位置に身を寄せる。
知念はそれに気付いて、そっと優しく手に力を込める。
最初に繋いだ時とは違う感覚が、温度がじんわりと沁み込んでくる。

そうして目を閉じる瞬間、視界の端を掠めたのは
陽が染めた海よりももっと赤い、紅い


琉球の華の色。












寛のキャラソンを聞きながら。

06/0821




 
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