「ねぇ、ちね…っと。寛。」










Call My Name









「まだ慣れない?」


知念、と言いかけた事に気付いて、慌てて訂正するの
髪を手で梳きながら
少しだけ意地悪な表情を作って、その顔を覗き込む。

するとは小さく溜め息を吐き、バツが悪そうに視線を逸らし、眉間に皺を寄せる。
髪を弄っていた手を移動させて「癖になるぞ。」と茶化す様に笑って、
そこに指を這わすと


「何か、余裕でムカつく。」


それを払いのけ、子供みたいに唇を尖らせて、不満げにが呟く。
何だよ、その顔。キスしてくれって誘ってんの?
思わず笑いそうになるのを堪えて、


「誰が?」


そう尋ねると、は不満げな顔を更に歪めて
半ば自棄気味に


「あ ん た が!」


吐き捨てるように、そう言って、は俺の後ろ髪を、ビンビンと引っ張る。
おい、痛いって。
放っておいても良かったけれど、このままにしておくとエスカレートして
毛を抜かれ兼ねない。それはどうもイタダケナイので、正当防衛と腹を決めて
彼女の無防備なわき腹を、意味ありげにそっと撫ぜる。
そうすれば、は驚きで体を小さく震わせ、髪を掴んでいた手の力を思わず弱める。
勿論、それを狙っていた俺は
出来た掌の隙間に、指を滑り込ませて彼女の指に自分のそれを絡める。


「今、わざと名前を言わなかっただろ?」

「…別に。違う。」


嘘。
気付いてねえの?
お前、嘘吐く時は一瞬間が開くんだよ。それに少し、声も低くなる。
これだけずっと傍に居るんだから、そんな変化くらい簡単に分かるさ。


「何で呼んでくんねーの?」


それでも違うと言い張る彼女を無視して、頬と耳の中間地点。
頬に口付ける訳でもなく、耳にキスする訳でもない微妙な場所に
唇を寄せて呟く。


「ちょ、っと。」


突然の接近に、驚いたと言わんばかりにが息を呑む。
たじろぐ彼女をそのままに、再度「何で?」と問い直す。
それでも答えないから、もう一度。
しつこくて申し訳無いけど、そう簡単に引けるような正確じゃ無いんだ。
悪いな。

何故の言葉を何度か繰り返していると、観念したのか
は視線は逸らしたまま、ゆっくりと重そうに口を開いた。


「知念で呼び慣れちゃったから、咄嗟に下の名前が出てこないんだよ。」


苦い表情。
何だ。そんなのは知ってたけど、本人は結構気にしてたのか。
意外に思い黙っていると、一瞬、間を置いて
彼女は言葉を続ける。


「…呼び間違えるなんて、失礼じゃない。」


云い終えると同時に息を吐いて、伏せてた瞳を上げる。
睫に隠されていた、深い色の眼球が俺を映して細められる。
それは対した事では無いのだろうけど、俺からすれば、その何気ない仕草ですらも
特別のように思えて。元から悪くは無かったけれど、気分が一気に浮上して
やっぱり、俺はこいつが大事なんだと、気持ちを再確認。

そう思うと、の気まずい気持ちも分からないでもないけれど、やはり彼女の声で
自分の名前を聞きたくなって。
指を絡める力をほんの少しだけ、強めて、彼女の手を握り直し、促す。


「なら、練習すれば良い。」


早速練習。ほら、呼んでみて。俺の名前。
言われて、は一瞬怪訝そうな顔をする。けれども、直ぐにその表情は隠し
ゆっくりと瞬きをしてから、一呼吸おいて、囁くような小さ目の声だけれど


「ひろし、知念寛。」

「知念は、邪魔。もう1回。」


額を合わせて、視線も合わせて、微笑めば、
も少し眉尻を下げて、俺につられて柔らかな笑みを浮かべる。

やっと、笑った。


「ひろし。」


そして、今度は何の迷いも戸惑いもなく、俺の名前が紡がれる。












名前発覚記念のフリー配布夢でした。

現在配布は終了しています。

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