その日は、いい加減遅くになるまで練習が終わらなくて
すっかり日も暮れて、夕飯時もとっくにすぎた時間帯。
俺は自転車で帰路を急いでいた。





と初めて接触したのは、



丁度その時。















恋の始まり

















家へ帰る途中、見覚えの無い小さな背中を見付けて
ペダルを漕ぐ足を緩めた。
見た感じからして、同い年くらいの女子だろうか。
キャミソールにハーフパンツと云う、何とも無防備な恰好をしている。
幾らなんでも危ないだろう。
そう思った瞬間、背を向けていた女子がくるりと体を反転させた。


「・・・?」


こちらを向いた顔は、見知った顔で
それは先日隣のクラスに転校して来たばかりの女子だった。
も俺に気付いたのか、表情を笑顔に変えると小さく手を振って
俺のほうへ近づいて来る。

・・・俺のこと、知ってる?

と話した事は、無い。顔見知りですら無い。
ただ、は東京からの転校生って事で学校内では密かに有名だったから
俺はのことを知っていたわけだけど、まさかも俺を知っているとは思っても
いなくて


「こんばんわ。えっと・・・知念くん?」


名前を呼ばれて、更に驚いて


「こ、んばんわ。」


上擦った声で、そう返すしか出来なくて。けどは気にするようすもなく
笑顔のままで「どうも初めまして、です。」と頭を下げてきた。


「知ってる。隣のクラスだろう?」

「うん。よくご存知で。」

「は、有名だから。」


そう云うと、は「転校生だからね。」と頷いて、自転車のかごにそっと手を掛けた。
その細くて白い指先に、思わずドキっとした。
沖縄にも色の白いやつはいるけれど、それとは違う白さに目を奪われる。
は今、薄着だから目のやり場に困って
不自然にならないように視線を外してみるものの、やはりが気になってしまう。


「ところで、知念くんは部活帰り?随分遅くまでやってるんだね。」

「あぁ、大会が近いからな。」

「お疲れさまです。」


軽く頭を下げて笑う。初めてみた時も思ったけど・・・・は可愛い。
凛や甲斐は普通だって言っていたけれど、俺からすれば、凄く可愛いと思う。
そう思っていたから、がこうして笑顔で俺に話しかけてくれる
ことが意外で。きっと赤くなっているだろう顔を軽く伏せて、ついこんな事を
聞いてしまった。


「は・・・俺が怖くないか?」

「何で?全然怖くないよ。」


まさか即答されるとは思ってもみなくて、聞いた俺が逆に驚いて
言葉に詰まってしまう。


「女子は・・・たいてい俺のこと怖がる。」


背は無駄に高いし、強面だから。口下手だし。
慣れればそうでも無いけど、初対面の人間には怖がられる。
だから、が普通に接してきてくれて凄く嬉しかった反面、驚いた。


「へー、皆変わってんね。」


半ば興味無さそうにが呟く。
変わってるのはの方だと思うが、それは黙っておくことにした。


「あ、もう九時だ。引き止めちゃってごめんね。」


時計を見て、前籠から手を離す。
それじゃあ気を付けて、と踵を返そうとするの腕を反射的に掴む。


「知念くん?」


少し驚いた表情で振り返ると目があって、咄嗟の行動に自分でも
訳が分からなくなりながらも必死に言葉を紡ぐ。


「は、これから何処かへ行くのか?」

「いや、別に。ただの散歩です。」

「…この辺り、最近変質者が出るから。」


家まで送る。
このままだと恰好の餌食だ。


「大丈夫だよ!!誰もアタシなんか狙わないって!」

「そんなこと無い。送る。」

「え、いいよ!お腹すいてるでしょ?早く帰りなよ!」


確かに腹は減ってる。
でも、それよりもを無事に帰すことのほうが俺としては大事。
見かけた時にも思ったけど、今のの恰好は危なすぎる。
ここは人通りも少ないし、何かあったらなんて考えるだけでゾッとする。

渋るから住所を聞き出すと意外にもの家は家の近所で、通り道だからと
自転車の後ろに乗るよう促す。

は「それじゃあ、お願いします。」と遠慮がちに荷台に跨って
俺の腰に軽く腕を回した。
数十秒前よりも、ずっとが近くなる。
背中越しにの香水の匂いが微かに鼻を刺激する。
上がってゆく心拍数。
それを誤魔化すように懸命にペダルを漕いだ。

途中、


「沖縄ってさぁ、良い所だよね。」


ポツリとが呟いた。


「都内とかと比べるとやっぱり不便は多いけど、空気とか海は綺麗だし
 空も近くて星も良く見えるし。」


少し低めのの声。
自分が生まれ育った場所を誉められるのは、やはり嬉しい。
でも、この喜びがいつもより大きいのは、そう言ってくれる相手がだからなのか。


「アタシは凄く好き。」


そう言われて、心臓が、跳ねた。
自分のことを言われたわけではないけれど、“好き”の一言がやけに耳に残って
鼓動を早くする。それだけじゃない。体中の血が、沸騰したみたいに熱い。
きっと今俺は真っ赤な顔をしているんだろう。
に悟られないように、けれどやっとの思いで「そうか。」とだけ返事をして
走る速度を上げた。


「送ってくれて有り難う。お休みなさい。」


の家までは、長いようであっと言う間だった。
自転車から降りたが笑顔で手を振るのを背に、俺は今度こそ自宅へと急ぐ。
途中、空を仰いで顔の熱を冷まそうとしたけれど
頬に集まった熱はなかなか冷めなくて。そればかりか、そうしようとすればするほど
のことを思い出して、余計に熱くなってしまった。
結局、動悸もおさまらず飯も満足に食えなかった。

翌日、擦れ違い様に


「昨日は有り難う。」


と満面の笑みで言われ、横に凛が居るにも関わらず赤面してしまい
思い切りからかわれた。


そして、その時。


初めて、女の子を好きになったんだと自覚した。



初恋は実らないってよく言うけれど

めでたいことに

俺の恋が実ったのは、



この日から丁度一月後のこと。
















馴れ初めのような。

05/0410


 
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