引き出しの中を整理していたら、奥から出てきた小さな指輪。
ブルーベースのビーズで出来たそれは、
確か、初めて男の子から貰った物。
硝子珠メモリィ
嵌らないだろうと思ったけれど、物は試し、と小指に滑り込ませた
小さな環っかは、関節で止まるかと思いきや
きっちり根元まで滑り落ちた。
「意外と可愛いかも･･･。」
１０年近く前の指輪が嵌った事と、チープな作りが意外とツボで
何だか嬉しくなる。
すると今度は、妙に外へ出たくなって、特に用も無いのに
近くのコンビニまで散歩することに決めた。
財布を引っ掴んで、買ったばかりのミュールを履いて、日傘を持って
さぁ、お出かけです。
傘で日差しを遮りながら、ゆっくりと道を歩く。
途中、部活帰りの同級生と擦れ違って、夏休みなのにお疲れ様、なんて思う。
もしかしたらテニス部も終わりだったりするのかな。
そう思った時、
チリン
道を挟んだ向こう側からベルの音が響いて、顔を上げると
そこには自転車に乗った知念が居た。
わー、凄い偶然。
知念は車が来ないのを確認すると、道を横切ってこちらへやって来た。
「今、帰り？お疲れ様。」
「あぁ。は、どこかへ行くのか？」
ちょっとコンビニまでね、と言うと、知念は無言で自転車の荷台を叩く。
乗れってことですか？
「傘はたためよ？」
「分かってるよー！」
傘を閉じて、二台に腰を下ろす。
車輪に絡まないよう片手でしっかり持って、もう片方は知念の腰へ。
アタシがしっかり掴まったのを確認すると、知念が大きくペダルを漕ぎ出す。
日差しを遮るものが無くなって、眩しくて暑いけど、その代わりに
全身で感じる風は、もの凄く気持ちが良い。
もともと大した距離じゃないコンビニは、自転車と言うこともあって
あっと言う間に着いてしまった。
乗せてくれたお礼に知念にジュースと、アタシの分のアイスを買って
近くの公園に移動です。思いがけずデートみたいになって、幸せだ･･･うへへ。
「今日も部活大変だった？」
「あぁ、甲斐が木手を怒らせて大変だった。」
また･･･毎日毎日懲りないねぇ。アイスを齧りつつ、苦笑い。
頼むから知念の胃に穴は空けないで欲しいと思う。
知念はテニス部のお母さんだからね。
アイスも食べ終わった頃、
「初めて見るな、それ。」
指輪に気付いた知念。
でもきっと前から気付いてた。チラチラ指のほう見てたし。
タイミングを見計らってたんだね。キュン★
「これ？掃除してたら出てきたんだー。」
可愛いでしょ？
知念の言葉に頷いて、冗談まじりでそう言ったら、「可愛い、よく似合ってる。」
と本気な顔で返されて、恥ずかしくなる。
･･･知念は天然だからたちが悪い。
これ以上好きにさせてどうするともりなのか。
「自分で作ったのか？」
知念がアタシの手を取って、指先でそっとビーズをなぞる。
その行為に胸をキュンキュンときめかせながらも、首を横に振って
昔、男の子に貰ったと馬鹿正直に答えてしまった。
彼氏の前で、普通そう言うことはばらしませんよ、さん。
言った直後に後悔してみるものの、発言は撤回なんて、取り消しなんて出来ない。
知念の眉が、不機嫌そうに寄せられるのを見て
アタシは心の中で一分前の自分を張り倒してみる。おぉぉ･･･馬鹿ーー！！
「･･････ち、知念？」
無言で指輪を外す知念。
あの、お、怒ってますか？
「似合ってるって言ったけど･･･、」
外した指輪を掌に乗せ、握り込ませられる。
「もう、するな。この指輪は。」
似合うけど、俺以外のヤツから贈られたもんを着けられるのは
あまり良い気がしない。
･･･あの、あれですよね。
もしかしなくても、ヤキモチ、妬かれてますよね？
う、わ･･･。どうしよう。不謹慎だけど、申し訳ないけど、嬉しい、かも･･･。
「明日、木手に言って部活は休ませて貰うから･･･俺が買ってやる。」
そう言って、握られた、手。
どうしよう。顔が、熱い･･･。
嬉しくて、知念の言葉が、気持ちが嬉しくて。
アタシは思い切り知念に抱きついた。
「！？」
「うん、もうしない。有り難う、知念。」
返事の代わりに、大きな手で抱き返されて
一度だけ、軽いキスを贈られた。
今日はもう幸せすぎて鼻血がでそうです。
手帳にこの良き日を記念日として、記しておこう！！
翌日、木手ちゃんから何とか休みをもぎ取った知念とお出かけして
勿論レプリカだけど、とても綺麗な赤い石が付いた指輪を買って貰いました。
ちなみに知念セレクトです。
「何で、赤い石だったの？」
「･･･小指に嵌めるなら、赤だろう。」
知念は意外とロマンチストでした。･･････愛しい。
知念だってやきもちくらいやきますよ。
05/0328
