夕暮れの浜辺を、君と歩く。










サンセット・オレンジ 










期末テストも終わって、後は夏休みを待つばかりの七月初頭。
この日、テニス部は意外な事に練習は休みで
もの凄く久しぶりに、アタシは知念と一緒に帰ることになった。

知念の自転車の二人で乗って、門を出るところで木手ちゃんと甲斐くんに遭遇。
甲斐君に、少々冷やかされた(木手ちゃんには危ないと怒られましたよ)けど
今日はそれがやけにくすぐったくて、嬉しかった。
いつもは恋愛事は柄じゃないって、凄く照れくさいんだけどね。
久しぶりだから、特別なんだ。きっと。

ゆっくりと走り出す自転車。
透けるような青空は、なんと言いますか
こう若者の熱い血潮を沸き立たせるものがありますよね。

そんなこんなで
まっすぐ帰るのも勿体無いから海へ寄り道することに決めた。
さて、方向転換先にはゆるやかな上り坂。
流石に辛いだろうと思い、降りようとしたけれど、知念は

「いい。そのまま乗ってろ。」

そう制止して、一度も苦しそうな素振りは見せず
寧ろ余裕な涼しい顔で上りきってしまった。

あ〜、鍛え方が違うもんね。凄いよ。
アタシなんて一人でも座ったまま漕ぐなんて出来ないもん(軟弱)
細いけど、ちゃんと筋肉ついてるし…羨ましいな、オイ。

「しっいり掴まってろさい。」

上り坂があれば、今度は当然下り坂。
腰に回した腕に力を込めて掴まり直すと、グンと一気に自転車はスピードを上げて
風をきって坂を下る。

「あっはははは!きもちいー!!」

落ちない程度に知念の背中から体を離して後ろに背を反らす。

「落ちるぞ!」

「だーいじょうぶ!」

だってこうした方が風がたくさん当たって気持ちいいんだよ。
知念の忠告を無視して、風を楽しんでいたら
自転車を揺らされて思い切り知念にしがみつく結果になった。

マジでビビッたアタシを、知念は横目で見て大笑い。
そーいうヤツですよ、あんたは。



凛ちょんに教えて貰った穴場の浜辺は
見事に誰も居なくて、アタシは靴を脱ぎ捨て裸足で海に突っ込んだ。
自転車に鍵を掛けていた知念も、同じように靴を脱いで
アタシの隣に立った。

その後は、もうお決まりです。
ドラマでもよくある、水の掛け合いの始まり始まり。
お互い遠慮なしでハシャギまくって、大笑いして、テストのストレスを全部
吹き飛ばした。

スッキリと疲れた後は(日本語変だな…)二人で浜辺に座ってテストの事とか、
部活の事を話した。



「今度、東京行くんでしょ?」

お土産よろしくね。

「あー、任せとけ。」



その内、いつの間にか日は傾いて、世界をオレンジ色に染め上げた。

昼間は真っ青な海も、打ち寄せる波も全部、橙色。

初めてみる景色ではないけれど、ゾクリと鳥肌が立った。
何だろう。凄く綺麗だけど。綺麗だけど、綺麗すぎて恐い。

「、どうした?」

固まったアタシに気付いた知念が、身を屈めて覗き込んでくる。
メッシュの入った前髪が目の前で揺れて、心配そうな色を浮かべた
瞳と視線が合って、ハッと我に返る。

なんでもないよ、と笑って見せれば知念も同じように、そうかと小さく笑む。
微笑みあったアタシ達は、そのまま
抗えない重力のようなものに引き付けられるみたいに、どちらともなく
額を寄せた。

「、」

名前を呼ばれて、目を閉じる。
一瞬置いて柔らかな感触が唇に重なって、けれどもそれは直ぐに離れて。
瞳を開けると、あからさまに視線をそらした真っ赤な顔の知念が居た。

相変わらずのシャイっぷりですね。

付き合って、もう一年半以上経つと云うのに
一応は一線も超えた仲なのに、キスだけでこの反応ですよ、奥さん。
そんな知念が愛しくて、でもそれ以上に可笑しくて
堪えきれずに噴出したら、知念は更に顔を紅くして立ち上がり
アタシに背を向けて、早足で歩き出した。

逃げたよ、かわいいな。

アタシは苦笑いもそのままに、急いで立ち上がり

「知念、待ってよ!」

小走りで駆け寄って、無防備だった知念の腕に飛びつく。
驚いて声を上げた知念。
にっこり笑って、大分差のある大きな知念を見上げて
丁度良い位置にある大きな手に指を絡めた。

やっぱり視線はすぐに逸らされたけど、絡めた手は振りほどかれず
逆に強く握りこまれて

アタシはどうしようもなく嬉しくなって

「好きだよ。」

なんて、思わず漏らしてしまった。



手を繋いで、君と歩く浜辺。
テストの結果は恐いけど、なんて幸せ。




でも欲を言うなら、「俺も。」くらい言って欲しかったです。













知念が気になる、もうこれは恋だ。
でもきっと木手様が活躍し始めたら、気持ちは彼に傾くんだ。(何それ)

紫月の中の知念像はこんな感じです。純情少年。

05/0320


 
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