Daylight Nightingale






弦を弾く、指先。形が良いと思っていたそこは、実は武術とかテニスの練習で出来た肉刺やら
タコやらで少し歪んでしまっていて。
それを醜いと思う前に、澄ましてるこいつの真剣な部分を垣間見てしまった事に少しキュンと
してしまった。
その指が爪弾くメロディ。
アコースティックギターが奏でる旋律。
こいつのオリジナルだと言う曲は、音のせいだろうか、少し切ない印象を受けるバラード。
凛がギターを弾けるという事実にも驚いたと言うのに、
加えてこんな繊細な音の流れを生み出せる事に本気で驚きを隠せない。

本当、器用なヤツ。

三角座りで目を閉じて、凛の音に耳を澄ます。
ギターの音に交じって聞こえる、蝉の鳴き声とテーブルに置かれたグラスの中で弾ける氷の音。
夏の音。切ない旋律。
チグハグなメロディが鼓膜を震わせる不思議な感覚。
風が運ぶ潮の香りと、凛の香水の匂い、汗の匂い。
目を空ければ、ベッドの上で真剣な顔でギターを弾く凛の姿。
人間が持つ五感の半分以上が凛が生み出すモノによって塞がれている。
不意にそれに気付いて、気恥ずかしくなって慌てて目を閉じれば、その直後にギターの音は鳴り止んで。


「どーよ、俺の腕前は。」


代わりに凛の声が耳に届く。


「んー、良いんじゃない。」


目を伏せたまま、素直じゃない感想を述べれば軽いブーイング。
もっと可愛い事言えねーのかよ、なんて言う声が聞こえる。うるさいよ。
こっちは今、曲の余韻に浸ってるんだから。凄い、恥ずかしいんだから。
柄にもない事、感じてるんだから。
だから、文句言うな。


「まぁ、良いや。それより。」

「うん?」

「そっちに居ないで、ほら、近う寄れ。」

「何それ。」

「昨日、裕次郎のばーちゃんと一緒に時代劇観たんだよ。ほれ、良いからこっち。来い。」


言いながらボスボスと自分の隣りを叩き出す凛の言葉に従って、立てた膝を崩して這う様にその場所へと近付く。
一歩進むと同時に濃くなる香水の匂い。
あぁ、やばい。ドキドキする。
繊細な乙女心は些細な事で揺れてしまうから困るんだ。もっとそつ無く生きたいのに。


「それで?何で御座いましょう、お代官様。」


御指名通り、ベッドの上に乗り上がり正座すると凛は満足そうに目を細めて
その優しい目つきとは裏腹に乱暴な手付きで掻き混ぜるようにアタシの頭を撫ぜる。


「うっわ!何!?」


驚いて体勢を崩すアタシに、追いかけるように身を乗り出す凛。
ふしだらですよ、平古場くん。
体勢だけを見たら満々盛ってます!な状況だけど、覆い被さるように上体を寄せる凛の目は
相変わらず優しい、穏やかな色をしている。
そんな今日、2度目のチグハグな状況の中。身の振り方が判らずに、困惑するしか出来ない。


「さっきの。アレ弾くとさ、何かすげー甘えたくなんの。」


頭から移動した手が、指先が。耳に着けたロングピアスに絡んで、軽く引っ張られるけれど
力なんて全然入っていないから痛みは感じない。逆にくすぐったくって、肩を竦ませると
凛は楽しそうな笑顔を見せる。


「なぁ、。」

「なに?」

「今日、暑いし、」

「うん。」

「迷惑かもしんねーけど。」


ちょっと甘えさせて。
言うと凛は、アタシの肩口に自分の額を寄せてゆっくりと体の力を抜いた。
預けられた全身。正直に言って重いし、凄い暑いけど。どうしてだろう、文句を言う程じゃない。
返事の代わりに背中に腕を回せば、触れる面積が増して、じわりと汗が滲むけど、嫌じゃない。
凛の長い金髪が、首筋に纏わりついてくるけど、不快感なんて無い。

胸の奥から湧き上がる、愛情のような、母性のような曖昧な感情。

名前も無いそれを持て余しながら、時間はゆっくりと過ぎて行く。
彼氏と彼女が共に過ごすにしては静か過ぎる時間の中、余韻として残るギターの音が
海のさざめきのようにリフレインする。

もし、またあの曲を聞かせてとせがんだら。
君はアタシの為に弾いてくれて、君はまたこうして甘えてくれるのだろうか。

それはいつになるか判らないけれど。不透明な未来に少しだけ期待を寄せて
露になった凛の耳元へそっと唇を寄せた。






消化不良気味…。凛てどんな子だったか…いまだに掴めないぜ。

07/0722






 
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