刷毛がゆっくりと滑って、爪に色をつけてゆく。









彼の爪










凛が急に家へ押しかけてきたのは、十五分くらい前。
部活は?って思ったけど、きっと木手ちゃんの目を盗んで
サボってきたんだろうと考え付いたから敢えて聞かなかった。

その凛が手土産として持ってきたのは、一本のマニキュア。
持ってない色だったから有り難く頂いて後で塗らせて貰おうと
思ったのだけど、凛は


「今、俺が塗ってやる。」


そう言って聞かなくて、アタシは仕方なく言われるがまま
凛にネイルカラーをして貰うことにした。

取り敢えず、ベースコートだけは自分で塗って
乾いたのを確認すると机の上に手を置いて凛を呼ぶ。
ベッドの上で雑誌を読んでいた凛は、アタシの声を聞くと
嬉しそうに、でも何かを企んでるような笑みを浮かべ近づいて来た。


「じゃあ、動くなよ〜。」

「って、何で後ろに回るのさ。」


真正面に来ると思っていた凛は、何故かアタシの背後に回りどっかりと腰を下ろし
腰に腕を絡ませるとグッと自分の方へアタシを引き寄せた。
引かれるがまま、アタシは凛の腕の中にドサリと(こんな重い音はしなかったけど)
納まり、


「え!ちょっと凛!!」

「はいはい、大人しくして。」


楽しそうな凛の声。

腰に回っていた手を、今度はアタシの手首に滑らせて動かないよう固定する。
痛くはないけれど、振り解けない程度に込められた力。
抵抗なんて出来るわけなくて(出来たとしても無駄)アタシは胸中でため息を吐きつつ
ゆっくりと体の力を抜き、凛に身を委ねた。


「ところでさ、」


刷毛がゆっくりと爪の上を滑る。
器用にはみ出すことなく、1本また1本、綺麗に染め上げられてゆく指先を
見ているだけでは暇だから、邪魔にならない程度に話しかけてみる。


「ん?」

「何でこの色なの?」


女の子、彼女に贈るには少しハードな色ではないかい?
かっこよくて良いとは思うけど、女慣れしてる凛にしては珍しい選択だ。


「何でって、」


集中しているせいか、返事がワンテンポ遅い。
きっと相当真剣な顔をしてるんだろうけど、この体勢では残念ながら
見ることが出来ない。凛のマジ顔なんて滅多に見れないのにな。
見たいけど、動いたら怒られるからここは我慢です。


「俺も好きな色だし、俺のジャージ色だし。」


ジャージ……色気ねえ…。
確かにテニス部のジャージ(とユニフォーム)はこの色だけどさ。
もう少しこう、素敵な理由を・・・!


「名前も気に入ったしな。」


名前…?
あぁ、そう言えば、このブランドはコスメの一つ一つに名前がついてるんだっけ。


「知ってる?これの名前。」

「うんにゃ、知らない。」


全ての爪を塗り終わって、凛の手が離れる。
そして、その手は最初と同じように腰に絡んで、きつくアタシを抱きしめた。
それと並行で耳にキスを落としつつ、凛は言葉を続ける。


「“彼の爪”て言うんさ、これ。」


なるほど。
何となく真意が分かりました。


「これで、の爪の先まで俺のもの・・・独占欲強めな俺にぴったりっしょ?」


そう言って、首筋に落とされた唇。
少しキツク吸われて、軽い痛みが走る。
・・・やりやがった。キャミソールだと隠れない位置にわざとつけやがった。


「、俺が東京行ってる間に浮気すんなよ?」


痕の上に、もう一度優しく、可愛らしく音なんかたてて口付けられる。
あぁ、そう言えば明日から大会で東京に行くんだっけ。
そんなことしなくても、アタシに手を出すような物好きはあんたくらいしか
居ないと思うけど。


「あんたこそ、妙なスタンドプレイして皆に迷惑かけないようにね。」


知念君の胃に穴が空いちゃうから。

アタシの言葉に凛は気持ちの籠ってない返事をして
今度は首筋じゃなくて、唇にそっとキスを降らせた。


ネイルが乾いていないのを理由に、今は好きにさせてあげます。


大会、頑張ってきなさいよ?











ハウル平古場。
正統派美少年だと思います。でもキャラはよく分かんない。

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