さん。」

ああ、木手ちゃん。今日も素敵なお声ですね。
ついでにいうと髪型も決まっていらっしゃいますね。
でも、それよりも何よりも今日も眼鏡が素敵ですね。
アンダーフレームの知的な感じがたまりませんよ。
イイ趣味をしていらっしゃると思います。

「さん…、」

さて、誉められるトコロは誉めました。
だから木手ちゃん、

「どいて下さい。」


「お断りします。」










おいつめられた、バンビーナ










メーデーメーデー。
ワタクシ、はただいま追い詰められています。
壁際に追い詰められております。
男子庭球部部長、木手永四郎によって誰もいない放課後の廊下にて
壁際に追い詰められています。
隊員は至急応援に来られたし!


って来るわけねえー!!!!


「さん、一人で百面相するのは構いませんが
 俺の話も聞きなさいよ。」

「聞いてます、すっごい聞いてます。だからそこをどいてください。」


高速で首を縦に振りながら微笑んではいるけれど実は目が笑っていない木手ちゃんに
ささやかな要望を申し立てるも


「お断りします。」


即行で却下されました。
て言うかなんなんですか。
急に呼び止めたと思ったら何の断りもなしに
いたいけな少女を壁際に追い詰めるなんて、一体何が目的ですか。


「さん。」


逃げようと思っても、体の両脇に木手ちゃんの腕があって
閉じ込められているような状況で、しかもあの策士(て知念が言ってた)の
木手ちゃんがそう簡単に逃がしてくれるわけが無いし。


「俺はですね、」


やれば出来るんだろうけど……。
腹にいっぱつ拳を叩き込めば怯むかな。
でも後が恐いので出来ればやりたくないんだよね。


「あが!」

「あんた、また人の話を聞いてないでしょう。」


痛い!ちょ、痛い!!
この男、人の両頬をおもいっくそ抓って引っ張ってますよ!!
痛いからマジで痛いからー!!


「この状況、分かってんですか?理解してないでしょう?
 そんなんだから甲斐君や平古場君に馬鹿にされるんですよ。」


分かったから取り敢えず離して下さい!
ほんと痛いんです!


「はぁ…まったく。仕方の無い人ですね。」

「……いたい。」


木手ちゃんは溜め息を吐くと共にアタシの両頬から手を離して、
眼鏡のフレームを持ち上げる仕草をして見せた。
それはつまり、アタシを閉じ込めていた腕が片方無くなったってコトで


「隙あり!!」


痛がるふりをして(や、本気で痛いんだけどね)そこから逃げようと体を滑り
込ませたけれど


「だから逃がしませんて。」


余裕しゃくしゃくで木手ちゃんに腕を掴まれました。
うおー!アタシの鈍足め!!


「本当に往生際が悪いですね、あんたは。」

「だ、だって木手ちゃんが理由も言わないで人を追い詰めたりするから!」

「言おうとしてるのにあんたが聞かなかったんでしょうが。」


…………………あ、そうなの?


「良いですか、耳の穴かっぽじてよーく聞いて下さいね。」


はい。分かりました聞きます聞きますよー、だ。


「好きです。」


ちぅ。



……お?


「今何ヲシヤガリマシタカ?」


ワタクシの気のせいでなければ、今、唇に柔らかい感触がしたのですが。


「何って、分からないならもう一度しましょうか?」

「結構です!」


抵抗はしてみるものの、帰宅部でか弱い乙女のアタシが
現役テニス部の木手ちゃんの敵うはずも無く
アタシは腕を引かれ、さっきと同じように壁に追い込まれて掴まれた腕は
縫い付けるように壁に押し付けられて


「好きですよ、さん。」


もう一度、唇を重ねられた。
腕は使えないし、体は密着してるから足を使って暴れることも出来ない。
出来るのは、
さよなら、アタシのファースト&セカンド・キッス。
もっとロマンチックなムードと環境でグッバイしたかったよ。
そんな感じの軽い現実逃避くらい。

つか、あの、唇舐めないで下さい。

これはアレですか、小説とかでもよくある「口開け、オラ!」ってヤツですか。
でもアレですよね、開けたらその舌、突っ込まれますよね。
それは勘弁の方向でお願いします。
まだワタクシ、初心者ですので。

しかし、そんなアタシの希望が通るわけも無く(通ってたらこんなことになってない)


「さん、口開けて。」


木手ちゃんが重ねていた唇を微かに離して、囁いた。
搾り出したような低い声は、少しだけ掠れていて
それに不覚にもときめいてしまった事は、乙女ゆえに許して欲しい。


「言う事聞かないと、この場で犯すよ。」


!!

こ い つ な ら や り か ね な い !!

ってギャー!!

驚きで緩んだ口元。
そこに滑り込んで来た、木手ちゃんの舌。
生温かいそれが口内をゆっくりと這い回り、逃げるアタシのものを
追いまわす。
この狭い中で逃げきれるわけがなくて、あっと言う間に絡め取られた舌先。
表面をザラリと舐め上げられて、ゾワリと背筋に何かが走った。


「ふ…んぅ。」


何度も何度も。角度を変えて繰り返される深いキス。
いい加減苦しくなって酸素を求めても塞がれたままの唇からは
吐息と妙に上擦った声しか零れない。
それと、粘着質な水音が耳を刺激して何とも恥ずかしい。

目を閉じているから分からないけど、きっと木手ちゃんは
それは意地悪で満足そうな顔をしているんだろう。コノヤロウめ。


「……お疲れ様でした。」


体の力が完全に抜けきった頃、やっとアタシは木手ちゃんから開放された。
息苦しいは心臓は早いは、力は入らないは意識は朦朧としてるはで
何ともグッタリで御座います。
こんな状態でも倒れないでいるのは、木手ちゃんがしっかりと抱きとめていて
くれているから。
アタシはただなされるがまま、木手ちゃんの肩に額を預け
酸素求めて喘ぐしか今は出来ません。
木手ちゃんはそんなアタシの髪をクスクス笑いながら、優しく梳いている。


「さんは、肺活量がありませんねぇ。」


うるさいよ。これでも人並みだよ。あんたがオカシイんだよ。


「で?どうでした?ファーストキスの感想は。」

「…………。」

「気持ち悪くは無かったでしょう?」


黙秘権を発動したいのですが…


「言わないともう一回…。」

「気持ち悪くありませんでした!」


アタシに権利なんて無いことは分かってました、分かってます。
誰か助けて下さい。


「それは良かった。俺達、相性が良いんですね。」


木手ちゃんの息が、耳にかかってくすぐったい。
身を捩じらせたら更に深く抱き込まれた。
別にもう逃げないよ。


「ところでさん、言い忘れてたんですけどね。」


何ですか?


「俺と付き合って下さい。」


そう言うのはチューする前に言うのが本当だと思います。
木手ちゃんは順番を大いに間違えてると思います。
まぁそんなコトよりも何よりも


ここで断ったらアタシ、一体どうなっちゃうんですかね?












よくあるパターン。
木手様はきっと強引な女王様です。
軽く性犯罪者がよく似合う。

05/0323(05/0429 修正)


 
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