香水とか、使っているシャンプーだとか、そんな甘い香りじゃなくて、

さんからは

コーヒーとタバコの匂いがする。










GAULOISE CAPORAL











抱き締める体は、細いし俺なんかより、ずっと小さい。
頼りない筈のそれは、背筋が伸びているせいか、儚さはではなく
凛とした強さを感じさせる。


「ねぇ、さん。」

「んー…?」


擦り寄れば、温かくて柔らかい、女の人の感触で俺を包んでくれる。


「どうしたー?裕次郎。」


カタカタと、キボードを叩く音にさんの声が重なる。
不規則なリズムのそれに、耳に心地良いアルトヴォイス。


「さーん。」

「何ですかー?」


掛けた眼鏡のレンズに反射して映る、パソコンの画面。
俺にとっては、意味不明、解読不可能な数字やらアルファベットが無数に並ぶそれを
彼女は無表情で見詰め、ブラインドタッチで更に画面に何かを書き足して行く。


「お腹でも空いた?」

「違う。」


もの凄い早さでキーを叩く指先だって、白くて細い。
さんは、一見。て言うか、どう見たって、完璧な女の人。


それなのに。



「さん…。」


着古されたルームウェアに包まれた体。その狭い肩口に鼻を埋めて
後ろから抱き込んで、腰にグルっと回した腕に力を込める。
何度もさんの名前を呼びながら、そこに染み込んだ彼女の香りを吸い込んで
そっと首筋にキスをする。


「さん、好き。ちょう好き。」

「おー、ありがと。」

「マジでさん大好き。俺、さんに滅茶苦茶に抱かれたいー。」

「アホか。アタシは女だっつーの。」


咥えたタバコを上下に揺らし、苦笑する彼女。
俺の甘えも冗談も、動じる事無く受けとめて、あまつ流してしまうさんが、
本当に本当に大好き。

男前すぎて、これで惚れるなって方が無理だもんよ。


「裕次郎。」

「何ー?」


癖の強いタバコとコーヒーの匂いがする、男前なさんの
決して広くない背中に額を預け、寄り掛かる。

あー、ご主人様に構われたくて仕方無い犬の気持ちって、こんな感じなんかなー。

なんて事をぼんやり考えながら、背面抱っこから膝枕へと体勢を変える。
すると、長くなったタバコの灰を落とす為にキーから持ち上げた腕を
唇から進路変更して、膝の上にある俺の頭に落とされる。
クシャリと柔らかく髪を梳き、それとは反対の空いた手で灰皿に灰を落としながら


「これ終わったら、お望み通りに抱いてやるから
 もう少し待ってて。」


PC画面から視線を少しだけずらして、俺を見て、さんが笑う。
どこかニヒルなその笑みは、何かもう、マジ渋いっつーか、男前で。


「ん、早くしてね?」


ズクリ、と心臓から涌き出る照れと嬉しさで緩む顔の筋肉を必死で抑えて
甘えた声を出しながら、彼女の腹部へ擦り寄る。

フランス製のタバコと、苦いコーヒー。

形容すると、おっさんかよ!みたいなそれ。
けれど、全然悪くない。

二つの香りが交じった、さんの香りは、俺との年齢差を歴然と知らしめる。
けれど、全然嫌じゃない。

それは寧ろ俺の心を緩ませて。


「裕次郎、寝るなよ?」

「ん…へーき。」


見せかけの異性も、無駄に這った片意地も剥ぎ取って、俺の全部を、緩ませる。
計算じゃない甘えの心地よさを、教えてくれる。

ヤる目的じゃなくて、傍に居たいと思った女なんて、さんが初めてだよ。

「寝るな。」なんて言いながら、茶色から陽に焼けてオレンジになった髪を
優しく梳いて行く指先。
その感触に誘われるように、抱かれる瞬間を待ちきれず、俺はそっと瞳を閉じた。












キレなお姉さんは好きですか?
05/1211


 
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